アウトソーシングの意味とメリットとは
国内市場の縮小や経済のグローバル化に伴い、多くの企業では利益拡大やコスト削減だけでなく、それと並行して業務の効率化や生産性の向上といった経営課題に直面しています。
そのため各企業では、組織内に有する経営資源の最適化を図るために“選択と集中”を行い、不採算部門の整理や、ノンコア事業のIT化などを積極的に促進させているのです。
そこで戦略的かつ有効な手段となり得るのが「アウトソーシング」です。
アウトソーシングの導入は、コア事業(コア・コンピタンス)への注力やコストダウンに寄与するだけでなく、経営リソースの選択と集中を進めるためには不可欠な手段と言えます。
今回の記事では、アウトソーシングの意味や導入する効果やメリット、同義語として用いられるBPOや派遣とのワードの違いについて解説します。
今後ビジネスを行う上で必要性や重要性が増すと言われるアウトソーシングの理解度を深め、今後の参考にしましょう。
目次
1.アウトソーシングとは
はじめに紹介するのは、アウトソーシングの意味や役割、導入が進む背景について解説します。
1-1.アウトソーシングの意味
アウトソーシング(Outsourcing)とは、直訳すると「外部資源の活用/外部調達」です。そこから派生して、企業内の人的リソースだけで業務を完結させるのではなく、業務領域によっては社外から生産に必要な部品等を調達したり、業務の一部を外部の専門企業に委託したりすることを言います。
主に自社内で人員を確保するのが難しい専門的な業務や、専門業者に委託した方が低コストかつ高品質で処理できるような業務に用いられるため、アウトソーシングすることで、経営資源の有効活用や、コア事業に位置付けられる製品開発やマーケティングといった企業競争力の強化に注力することが可能です。
1-2.アウトソーシングの導入が進む背景
アウトソーシングの需要は年々高まりを見せています。
IDC japan株式会社の調査によると、BPOの市場は7,691億円となり、2018年から2023年の年間平均成長率は3.5%、2023年の同市場規模は9,147億円へ成長すると予測されています。
各企業でアウトソーシングの導入が推進される背景には、以下の2点が起因していると言われています。
○労働力不足
第一に、マクロな視点から社会を俯瞰していくと、日本全体における少子高齢化による労働人口の減少が挙げられます。特に将来を担う若年層の労働人口は減少の一途を辿っています。少子高齢化の進行によって、生産年齢人口(15歳〜64歳)は1995年をピークに減少に転じており、2015年には7,592万人いた生産年齢人口が、2030年には6,773万人、2060年には4,418万人にまで減るとの見込みが推計として発表されています。
そこで企業の人手不足を補完する役割として、業務を委託することが可能なアウトソーシングを経営戦略の一環として活用する企業が増えていることが考えられます。
○多角化経営の拡大
国内市場においてアウトソーシング需要が高まりを見せている背景には、コストダウンや将来的な収益化の確保を目的とした事業の“選択と集中”を図るためのノンコア事業の見直しが必要とされています。それらを遂行するためには、企業内に蓄積した経営資源の有効活用と同時に、業務の効率化やリソースの最適な分配は不可欠です。
またIT技術の進歩や急激なグローバル化が進む市場で、企業の競争力や優位性を高めるためには、組織内に有する経営資源だけではなく、外的リソースを活用して成長を見込むといった選択肢を持つ必要があることがアウトソーシングの導入を促す背景の一つと考えられます。
2.アウトソーシングの種類
アウトソーシングには様々な種類や形態が存在します。
○コソーシング
アウトソーシングの形態の一つで、発注側と受注側が共同で業務にあたり、得られた利益の一部を予め取り決めた内容に従って分け合う方式を指します。
共同で行うメリットとしては、業務に対するノウハウや知識の蓄積をすることができるため、人材や技術の空洞化を防ぐことにつながります。また共同する企業の専門性やノウハウを習得することも期待できます。
○シェアードサービス
大規模な企業やグループで、共通項になる業務や部署を一つの組織に集約して、共同で組織を運営することを指します。
共通する業務や部署を専業企業として形成することで、品質の向上やコスト削減、サービスの平準化、従業員のモチベーションの向上に寄与します。
○インソーシング
外部にアウトソーシングしていた業務を、再び社内組織に取り入れる内製化する体制を整えることを指します。
また、アウトソーシングと言っても、業務を委託する外部企業(依頼先:アウトソーサー)の拠点や地域によって3種類に分類することができます。
以下では、それぞれの特徴とメリット・デメリットについて列挙しますので、それぞれの内容を参考にしてみましょう。
○オンショアリング
オンショアリングとは、依頼先の企業の拠点が自国内にある場合を指します。
【メリット】
・国語が通じる(意思疎通が量りやすい)
【デメリット】
・コスト削減効果が乏しい
○ニアショアリング(Nearshoring)
ニアショアリングとは、依頼先の事業者が自国から比較的に近い国の場合を指します。
【メリット】
・オフショアと違い、比較的コミュニケーションが図りやすい
・時差が少ないため、主張などで業務の経過を確認しやすい
【デメリット】
・エリアによっては委託する業務の人材が乏しい
・劇的なコスト削減は見込めない
○オフショアリング(Offshoring)
オフショアリングとは依頼先の企業などが自国内ではなく距離が離れた国や国内の別の地方など海外の事業者へ業務を委託することを指します。
【メリット】
・コスト削減
・多言語に対応している
【デメリット】
・言葉や商習慣の違いからコミュニケーションや意思疎通が図りにくい
・時差や休日など生活リズムの違い
・品質や契約をめぐる認識の相違からトラブルになりやすい
2-1.アウトソーシングに代替可能な業務領域
近年アウトソーシングできる業務領域は、IT技術の発達により拡大傾向にあります。
そのため、今では定型化された業務の委託だけではなく、高度な専門知識や技術を必要とする業務や、内製化することでコストが割高になるものなど多岐にわたる業務にアウトソーシングを活用することが可能です。
以下では、アウトソーシング代替可能な業務領域を紹介します。
○代替可能な業務領域一覧
【営業部門】
・営業代行(アポイント獲得を行うテレアポ代行など)、営業活動に付随する事務作業
アウトソーシングの領域の一つには、コア事業に含まれる営業部門の委託も含まれます。
背景には、人材を採用・育成する時間がないことや、営業活動におけるノウハウや手法が蓄積されておらず、それらの問題点を解消するためのサービスとして導入されています。
【人事部門】
・採用代行サービス、求人サイトの構築・運用システムの提供、求職者の集客など
従来人事部門は、人事制度の策定や、従業員の研修の企画立案、採用業務など、企業における人材や人事全般の業務を担っています。しかし多くの組織内では、人事部門はコア事業に位置付けられるにもかかわらず、定型化された業務や内部向け業務に時間を費やすことが大半となってしまい、リクルーティングや人材育成に時間を確保できないといった現状があります。アウトソーシングを活用することで、人事部門本来の業務であるコア事業に注力することが可能です。
【総務関連部門(経理・法務など)】
・給与計算、労務管理、経理・会計に係る事務処理(支払い・予算管理・決済業務など)、オフィス管理(受付・備品管理・文章管理など)
最もアウトソーシングが導入される分野となるのが総務や経理に関する業務領域になります。企業経営において定型化された業務が多く存在する一方で、情報入力等に多くの人的リソースを必要とするため、この分野におけるアウトソーシングへの代替は多くの企業で活用されています。
【情報システム部門】
・サーバーやストレージの運用・保守・機能強化、ハウジング、ヘルプデスクの設置、常駐サービスなど
近年では、IT化の発展に伴い、多くの企業でインターネット環境への対応が積極的に行われてきます。しかしその一方で、慢性的な人材不足(IT人材)やセキュリティの複雑化、サービスの多様化によって、社内のネットワーク環境の構築やシステムの運用・保守といったニーズが高まりつつあります。
3.アウトソーシング導入のメリット
続いて解説するのは、アウトソーシングを導入するメリットです。
業務委託することが、従業員の負担軽減に繋がると言ったメリットを想起しがちですが、アウトソーシングにはこの他にもさまざまなメリットがあります。
3-1. 業務効率化
アウトソーシングを活用する場合、専門企業に業務を委託することで、業務の処理速度だけでなく、品質を高めることも期待できます。そのため、従来はすべての作業を自社内で完結していたのに対し、アウトソーシングを活用することで高品質な業務を効率良くすることが可能です。
うまくアウトソーシングを活用することで、付加価値の高い業務やコア事業に経営資源を集中することができるため、市場の変化や顧客のニーズにスピーディーに対応できるため、結果的に業務効率化だけでなく、生産性の向上に寄与します。
3-2. コスト削減
自社の業務にアウトソーシングを取り入れるメリットの一つに、人件費や固定費などのコストの軽減につながると言ったことも含まれます。アウトソーシングの魅力の一つに、専門知識やノウハウを有する企業に作業を委託することができるといった点が挙げられます。これは業務効率や製品の品質を向上させるだけでなく、人材にかかるコストを削減できることにもつながるのです。
ただし、コストの削減だけを目的としてアウトソーシングを導入すると、ガバナンスの弱体化や外的要因による問題発生のリスク、技術力やノウハウの蓄積といった面が疎かになるデメリットも想定されるため、導入する際は、戦略的にアウトソーシングを採用することが求められます。
3-3. 経営資源の集中
近年のアウトソーシングは、単なる業務効率化やコスト削減だけではなく、経営戦略の一環としても活用されています。
継続的に企業の競争力や優位性を保つためには、経営資源の最適化をはじめ、独自のスキルやノウハウの蓄積、最新の知識やツールを活用することが不可欠と言えます。そのため、一から事業や部署を設立・運用するよりも、アウトソーシングの方が臨機応変にあらゆる環境に対処することが可能です。
3-4. 肥大した組織のスリム化
アウトソーシングの活用は、肥大化した企業構造のスリム化にも寄与します。
多くの企業では事業が成長し、経営を多角化することに伴い、それに比例する形で肥大化する傾向にあります。しかしその多くで、柔軟かつ流動的に構造や体質を変化させられないため、そのまま肥大化し過ぎて、かえって意思決定が遅れ、顧客のニーズに迅速に対応できないなどの弊害を招いてしまう恐れがあるのです。
そこでアウトソーシングを取り入れることで部門を分社化させたり、工数の削減をすることで経営資源の最適化が図れたり、肥大化した組織をスリムにすることができます。
4.アウトソーシングと業務委託(BPO)の違い
アウトソーシングは、冒頭で説明した通り「外部資源の活用/外部調達」と言った直訳から、企業が業務の一部を専門の企業に委託することを指します。
対してBPOは、「Business Process Outsourcing」の略語で、企業活動における業務プロセスの企画から設計、実施までを一括して専門企業に外部委託することを言います。
このため、一部の経営層やビジネスマンの中には、両者を同義語として認識し、従来の経営手法の一つである外注や下請けなどと、広義の意味で混同して理解していると言った例も少なくありません。しかし、アウトソーシングとBPOでは、それぞれ異なる業務領域で活用されるため、委託できる業務内容や採用するメリット・デメリット、導入コストに至るまで、あらゆる点において違ってくるのです。
以下では、業務委託(BPO)を導入する上で適した業務領域や、メリット・デメリットについて解説します。
事前に各リソースの位置づけや役割を把握しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができますので、
○業務委託(BPO)に適した業務一覧
・情報システム運用(ITアウトソーシング)
・顧客対応(コンタクトセンター、コールセンター等)
・総務、経理、福利厚生などの業務
【メリット】
・業務の効率化や生産性の向上に寄与
・コストダウンによって利益の向上が見込める
・あらゆる環境に対応可能(グローバル化、最近のIT技術の導入等)
【デメリット】
・委託業務の自社対応が困難
・業務委託に向けた準備期間とコストの確保
・セキュリティリスク
5.アウトソーシングと派遣の違い
アウトソーシングと派遣の違いは大きく以下の三点に集約されます。
・「人」か「業務」か
・指示系統の違い
・費用が発生する対象
派遣の場合は、人材を受け入れる企業が派遣業者と「労働派遣契約」を締結し、派遣社員を会社の中に受け入れ、自社組織の管理下のもと、業務を行うことになります。
それに対してアウトソーシングは、組織の業務の一部を外部企業に委託するため、人材派遣とは異なり社内に人的リソースを増やして各種業務に対応するわけではありません。
つまり、派遣は「外部からの人材の提供」によって、サービスを開発・運用する対価として、その組織で働く人材に対しコストが発生する一方、アウトソーシングは「業務自体を外部企業へ委託」するため、人材ではなく、委託した業務に対する成果物やサービスの品質によってコストが発生する点においても両者の意味合いは違ってきます。
また、業務遂行における指示系統についても、アウトソーシングが自社内で指示を出すのに対し、派遣であれば派遣会社から指示によって行われます。
そのため、以下では、派遣を取り入れるメリット・デメリットについて解説します。
【メリット】
・稼働時間に応じたコストになるため、コストの削減につながる
・派遣人材のスキルや経験を活用できる
・臨機応変に人材を利用することが可能
【デメリット】
・派遣期限が設けられている
・派遣サービスの業務内容には制限がある
6.まとめ
本記事では、アウトソーシングの導入にあたり、知っておくべき効果やメリット、種類、それぞれのアウトソーシングの違いについて解説しました。
アウトソーシングと一括りで言っても、求める業務委託や成果によって、方法や選択肢はさまざまです。
そのためアウトソーシングの導入を検討する際は、「目的の明確化」や「導入後の体制がイメージ化できているか」、「コストの許容度」などポイントをしっかり押さえて外部企業を選択するようにしましょう。
今後労働人口の減少や、企業のスリム化が求められる上ではアウトソーシングは不可欠なツールと言えます。今からしっかりとアウトソーシングを活用するメリットや役割を把握して、企業戦略や業務内容に応じて使い分けられるようにしていくことが、将来的な利益の拡大につながります。